30歳にして、フリーランスのキャリアコンサルタントの道を歩む阿部氏。学生や若年転職者の理解者となり支持を受ける彼は、若さを武器にたくさんの若者をサポートしている。キャリアコンサルトとは一体どんな仕事なのか?若者・学校・企業それぞれの「職」に関する意識、また、コンサルタントとしての今後の目標などをお話いただきました。
教育熱心な厳しい家庭に育った阿部さん。ご両親は幼少のころからエリートコースに進むよう彼に説いたという。
基本的には、色々とヘルプをしてくれる良い家庭でしたが、こと勉学に関してだけは、「ともかく勉強をしろ」と、厳しく言われました。手を上げられることもありましたね。両親はいい学校に行って、大きな企業に入るか公務員になるといったような、一般的に堅実だと思われている人生を送らせたかったのでしょうね。
高校は進学校に通うが当然、学校の授業は厳しい。中学時代まで、いわゆる「優等生」で過ごしてきた反発か、全く勉強をしなったという。何とか卒業するが、大学受験に全敗し、予備校での浪人生活に入ったそう。しかし、この予備校で出会ったひとりのカリスマ講師の存在が、氏の将来の道筋を示すものになったという。
浪人時代通った予備校に、オシャレで生き様もかっこいい、教え方も抜群に上手い講師がいらしたんです。例えば授業中に勉強とは関係の無い歌を唄い、その歌詞のすばらしさを語ったと思えば、行きつけのJAZZ喫茶のマスターの哲学のすばらしさを説いたり……。
とにかく人を惹きつけるのが上手くて、授業がおもしろくてしょうがなかった。その先生に出会えたおかげで、僕の心の中に内在した「勉強なんてツマラナイもの」というパラダイムが完全にひっくり返ったんです。もちろんこの先生は、単なるパフォーマーではなく、問題の解法テクニックも、“使える”ものだった。完全にインスパイアされた僕は、なんと全国で1位をとるまでに成績が伸びて、志望校に合格できたんです。
この時、「将来はこの先生のように、人にメッセージを伝えて、可能性を拡げる仕事をしたい。」と強烈に閃きました。それがキャリアコンサルタントを目指した、最初のキッカケです。
年齢が若いからこそ、成せるキャリア支援の方法がある
隣に並んで、向き合うって本当に大事なこと
主に学生や若手社会人のキャリア支援をしている阿部さん。キャリアコンサルタントとしては若年だが、若いからこその特権もあるそうだ。
僕は “若い” からこそ出来ることがあると感じて、日々この仕事に取り組んでいます。たとえば、学生や若手社会人だと年代が近い分、同じ目線で話し・聞き・向き合うことができるんですね。若者がキャリアコンサルタントとう肩書きに臆せず、フレンドリーに相談してくれるのも、親世代とはちがう、年代の近さに親近感を持ってくれているからでしょう。若者のキャリア支援をしていく上で、何でも相談してもらえるって本当に大切なことですから。
実は阿部さん自身にも、就職活動のときに結果が出ない、入社した会社を3か月で退社するなどといった経験がある。しかし、自身が苦い経験をしているということが、返って相手との距離を縮めるポイントになり、カウンセリングにも生かせているという。
人間って、悩んだり迷ったりした時には、「教えてくれる人」よりも「隣に座って話を聴いて共感してくれる人」の存在が必要だと思うんです。僕自身にもかつて苦い時代があったのですが、その時、上の目線からアドバイスする人よりも、話を聴いてくれる人の存在の方が何倍もありがたかった。だから悩んでいる人や迷っている人の相談を受ける時は、ともかく話を聴いて受け止めてあげることを意識しています。もちろん、プロですから、いわゆる就職や転職のためのテクニックもあります。でもそれは、求められたとき、タイミングが来たと思えるときまでは敢えて伝えないようにしています。
僕の学んでいるNLP(神経言語プログラミング)の中で「失敗はない。そこには学びがある」という標語があります。これは、辛いことや失敗したことの中に、そこから得て次につなげられるヒントが必ず存在するという意味です。僕の師であるキャリアコンサルタントの本田勝裕氏の言葉を借りて、僕は「ネガ →ポジ変換」と言っていますが、どんなにネガティブな事柄だと思っていても、視点を変えればポジティブに捉えることもできるかもしれないということです。
ですからキャリアカウンセリングの際は、ともかく相手の話を聴いて、色々な心の中の事柄を言葉にして出してもらい、それをありのままに受け入れます。そこから、肯定的な事柄を探し、ポジティブな方向につなげていくことを心がけています。
講座の参加者にどうしたら伝わるかを意識しながら、
講演や研修は組み立てています
学校や企業からオファーを受けて講演や研修を実施するというのが多い阿部さん。例えば大学で学生向けに講演をする際、メッセージを送るキャリアコンサルタントの話に耳を傾けてもらうために、さまざまな方法を用いている。
聞き手が興味を示さない講演や研修は、話し手に問題がある場合が多いと思います。だから僕は、講演や研修を講師の演じる「ショータイム」だと考えて、講演の最初に “この研修なんかおもしろそう” “このひと、なんかおもしろい!” って、思わせるような工夫や自己演出の仕方を考えています。そうすることで、僕という人間や講演テーマに参加者の興味関心をもって講座に耳を傾けてくれるんです。実は先日、プロのマジシャンにマジックを習いに行ったのですが、「魅せ方」という点で学ぶところがたくさんありましたよ。
あとは、なるべく講座の出席者に「参画」してもらうこと、これを意識してプログラムを組み立てています。大人でもそうですけど、話ってただ座って聞き続けるだけでは飽きますよね? ゲーム形式を取り入れたり、雑談でちょっとした芸能ネタをはさんだりとか、研修や講義に入り込ませるネタを自分自身も楽しみながら考えています。
話は変わりますが、僕、格闘技が好きなんですね。格闘技雑誌で「会場と“スウィング”した試合」という表現がよく使われるんですが、この“スウィング”というのは、試合で選手が発するエネルギーに会場のお客さんが反応して、会場全体が盛り上がった状態のことを言うのです。これって、講義や研修の場合でも同じなんですよ。いかにして参加者を引きつけて研修会場全体の空気を「スウィング」させていくか。これが講師としては大事だと思っています。僕の命題は、「楽しく伝えること」ですから。
相談者に対して上からものを言わないように、というのが阿部さんの心掛け。キャリアコンサルタントは「お手伝いさん」だと語る。
「阿部先生」と呼ばれることがしばしばあるのですが、僕は「先生」と呼ばれるのが嫌いなんです。僕は、キャリアコンサルタントとは指導者ではなく、「お手伝いさん」だと思っています。キャリアという分野は、数学のように唯一絶対の正解のない世界。正解は「その人の心の中にある」と思います。だから、一方的に上の立場からノウハウを伝えるのではなく、僕のノウハウや知識をヒントにして、正解を引き出す「お手伝い」をする、こういうスタンスで僕はキャリアカウンセリングに臨んでいます。
また大事だと思っていることは、「事実」と「意見“I think”」を分けてメッセージを発信すること。これができないと、自分の意見を一方的に押しつけることになってしまうんですね。
就職活動は自分を知る、本当にいいチャンス。
自分の心を開放して、好きなことや得意なことが何かを見つめてほしい
ところで、企業はどんな若者を採用したいと考えているのだろうか。
企業がほしい人材は「主体性」のある人だと思います。「“私は”○○が得意ですから、これを御社で活かし、伸ばしていきたいです。」「“私は”こんなことをやっていきたいので、御社でこんなことをやってみたいです。」など、主語を「私“I”」にしてしたいことや得意なことを語れる人が、求められているのではないでしょうか。
とはいえ、「自分には自信がない」、「どうせやってもダメに決まっている」と最初から就職活動を諦めたり、面接で良い返事をもらえなくて悩んだりする学生はとても多い。そんな彼らへのアドバイスをうかがった。
まずは自分の役割やキャラクターを認識することだと思います。例えば、明るくて部活の部長などのリーダー経験のある人は面接でも目立ちますよね。でも、当たり前ですが、みんながみんなそういう人間ではないですよね。そこで、「自分はあの人に比べて……」と落ち込む学生さんが多いのですが、目立つことやリーダーシップがあることだけが個性ではないんです。たとえば、「目立たないけど、コツコツやれる」とか、「グイグイ引っ張るタイプではないけれど、周りとの調整力はある」など、誰にでも長所と呼べる部分があるはずなんです。
企業は、リーダーシップのある人やアイデアを出すのが得意な人ばかりを採用したいわけではありません。例えば野球なら、1番バッターから9番バッターまで、それぞれ役割が違いますよね。誰にでも自分の個性を活かせる仕事やポジションがあるのです。まずは自分の特徴を認識し、それを肯定すること、そして面接でもありのままの自分、演じていない自分を出すこと。これがポイントだと思います。もし他人と比較をしてしまう癖が抜けないのなら、他人と比べるよりも、昨日の自分と今日の自分を比べる意識を持つことからはじめてみてはいかがでしょう。
就職活動や転職活動は、自分を知り、自分を成長させるための本当にいいチャンスだと思うんです。自分の心を開放して、本当に好きなことが何か、自分では気づいていない強みや長所はどこなのかを改めて見つめてほしいですね。
主語を“I(私)”にして、勇気をもって、一歩踏み出してみる。
実際に学生が企業選択をする際に有効的に活動するには、具体的にどのような方法をとれば良いのだろうか。気をつけるべきポイントをうかがった。
学生の場合は、月並みですがOB・OG訪問を薦めます。面倒だという人もいますが、OB・OG訪問はその会社に入るために行うのではなく、本人がその会社を判断するための基準を持つという捉え方で行うと、自分にとって必要な情報を得られると思います。
実際、会社が学生を選考していることは事実です。でも、その逆もまたしかりで、学生や転職希望者も会社を選ぶ立場にあるわけです。なんせ、日本に存在する275万社の中から、たった1社を選ぶのが就職活動なのですから。そもそも、企業のHPや求人広告は企業側から一方的に発信された広告のようなもの。だから、それらの情報だけでは自分にとっての「リアルな情報」は得られにくいんですね。だからOB・OG訪問をして、ネットやHPの情報だけでは得られないものを実際に体感すると良いでしょう。
最近は転職もごく普通のことになってきた。転職に際して重要な点は「人脈」だという。
転職希望者の場合も、基本は学生と同じです。ただ、学生のようにOB・OG訪問を許してくれる会社は少ないはずです。そういう時に役立つのが「自分人脈」なんです。学生時代の友達はもちろん、社会人になっても社内・社外に関わらず、どんどん人脈を広げていく努力をしていくべきですね。人脈を広げていくことで視野も広がりますし、もしかしたら、行きたい企業の方とどこかでリンクするかもしれません。そういう人脈を使って、色々と情報を収集していく努力が必要だと思います。
ただ、人脈作りに慣れてない人は最初は緊張しますよね。でも、僕の友人である「私には夢がある」の和田清華さんも言っていますが、「一歩踏み出すほんのちょっとの勇気を持ち、行動してみること」が最初は必要だと思います。
繰り返しになってしまいますが、あくまでもHPや求人雑誌広告はキッカケにすぎない。そのキッカケという扉を開いて、勇気をもって、一歩行動に移すと、自分にとっての可能性が広がると思います。常に主体を自分に置くことです。主体性を持ち、主語を“I”にして、私がやりたいこと、私が磨きたいことがこの会社にあるか……を見極めることが、企業選択のポイントだと思います。
悩んだり迷ったりしている人の可能性を伸ばしたい。
学生の就職が困難で、転職希望者も少なくない現代において、キャリアコンサルタントの存在感も、その意味もかつてなく高まっている。
僕たちキャリアコンサルタントがキャリアに悩んだり迷ったりしている人のためすべきことは、「可能性を引き出すこと」と「自信をつけさせること」が前提にあると僕は考えています。意見や価値観を一方的に伝えるのはなく、相手と一緒に考えるという立ち位置を確立できてはじめて、情報提供やテクニックを伝達するべきだと思っています。
最近は、若者の早期離職率が問題にされます。もちろん昔とは違って終身雇用の時代ではありませんから、一概に早期離職を否定するつもりはありません。ただ、社会に出る最初の段階から、「社会に出るなんて、つまんない」という考えを持っている人が少なくないのではないかと感じます。
そんな彼らに、「社会も楽しいんだ!」ということを見せてあげられる大人がいて、そういう大人と学生が触れ合う機会があれば、将来的にもっと活き活きと働く人が増えていくのではないかと思っています。
だから、今の大人、特にキャリアコンサルタントなどの就職支援行う人は、その人自身が「カッコイイ」と思われるような人であってほしいし、そういう存在の大人を育てていくことが社会に対してのミッションかもしれません。
最後に、阿部さん自身のビジョンを訊いた。
自分ではキャリアコンサルタントという仕事は天職だと思っています。仕事をしている感覚がないくらいに楽しんでいますよ。より多くの人の可能性を伸ばし、活き活きとした日本の社会創造の一端を担うことが、この時代に僕が生まれた意味だと思えるほど、この仕事に情熱を持っています。
最近では、「活人」という言葉をキーワードに仕事をしています。活人の意味は「他人に活かされ、他人を活かし、自分自身を活かす」ということです。要は、自分の目標となる人「キャリアモデル」を見つけて学ぶべきところを「真似ぼう」ということです。
僕自身にもキャリアモデルの先輩方がいます。その先輩方を見ていると、どんなにメジャーな方でも、感謝の気持ちを忘れず、謙虚に活人であることを実践されています。だから僕もこの「活人」をキーワードに、もっともっと人と会って、色々な話を聞き、楽しみながら多くのことを学び、自分を成長させていくつもりです。最終的には、この分野で「メジャーリーガー」になりたいですね。それも、イチロー選手のような本物の一流に!
“I think” “I want”、もっと自分本位に夢も仕事も楽しむべきだ、と阿部さんは言う。自分の心を開放して、自分を知ること。彼のメッセージが学生の心をつかむのは、阿部さん自身が、その実践者であるからに違いない。「生き生きと働く大人」の姿を、彼は確かに、若者に伝えているのだ。
阿部淳一郎〔あべ・じゅんいちろう〕氏
1974年9月24日生。神奈川県出身。早稲田大学教育学部卒。大学卒業後、教育関連会社、人事系コンサルティング会社等に在籍し、現場体験を積みながら数々の資格を取得。オフタイムにボランティアで学生就職支援をしながらキャリア支援関連のNPO設立に参画。2004年、キャリアコンサルタントとして独立。現在は、講師・キャリアカウンセラーとして就職支援・転職支援活動を行う傍ら、企業での新規事業開発や社員研修講師、インターンシップコンサルティング、採用コンサルティングなども手がけ、さらにフリーター・ニート支援や、小学校・中学校での起業家育成教育の講師も担当する。 2005年4月より某大学非常勤講師(キャリアデザイン担当)。NPO法人学生キャリア支援ネットワーク理事。
※このインタビューは2005年6月に実施。肩書き等は当時のものです。


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