昨今の「自分らしさ」の大合唱は、その喪失の裏返しのようでもある。一方で、植垣さんの言葉は率直で潔く、だからこそ、本物の「自分らしさ」と充実感に満ちている。「自分らしさ」のトレンドを、それに踊らされるのでなく、当たり前のものとして生きる。その生き方が「美学」という言葉で語られるのは、決して生易しいものではない「自分らしく」生きる努力が、実際、美しいものだからではないだろうか。

■「こんな人になりたい」と思ったから
――現在はどのようなお仕事を。
法人企業に対して、「人と組織」に関するコンサルティングをしています。事業拡大・業績向上に向けて人材や組織、風土等に課題を抱えているクライアントに対して、リクルートグループが今まで作り上げてきたフレームやノウハウ、サービス(メディアや研修のプログラム等)を活用して、解決策を提案、実行支援していくという仕事です。その中で私はコンサルタントとして働いています。
――今のお仕事を選ばれた理由は何でしょうか。
入社当時から4年間、求人領域に特化して、リクルートの持っているメディアやサービスを使って求人課題を解決する営業の仕事をしていました。その仕事をしていく中で、お客さんと戦略や組織、広い意味での人材という領域に話しが及ぶことも多く、企業の課題解決を、採用という手段だけではなく、もっと幅広い手段を持って支援したい、と思うようになりました。勿論、採用という手段で解決できる問題も多いけれども、他にも方法があって、それをリクルートでやれるのであればやりたいなと。そう思っていたときに、今いる部署が新設されたので、希望を出して異動したのです。
――具体的なきっかけはありましたか。
今の部署に興味を持ったときに、そこにいる人の話を聞いてみたら? と背中を押してくれた人がいたのです。それで三人の人に会って、飲みながら話を聞いたのですが、みんな非常に魅力的な方で。今までいた部署でも周囲には非常に恵まれましたが、また違うタイプの刺激的な人たちでした。「こういう人たちと一緒に仕事をすれば、また違う筋肉を付けられるかもしれない」と思い、異動を決めました。
――以前のお仕事にジレンマを感じていらっしゃったとき、転職などは考えられませんでしたか。
転職は考えなかったですね。理由は二つあります。一つは、リクルートって世間から見ると独特なポジションを得ていると思うんですね。そんなリクルートが好きだったから、そこから離れるのは勿体無かった。もう一つは、30歳まで勤めて退職すれば1,000万円の独立支援金をもらえるという制度があり、その制度を利用したかったのも理由です。なので、リクルートの中で探してみて、どうしても無かった場合だけ他のどこかに行こうと思っていました。
――現在のお仕事をどう思っていらっしゃいますか。
好きか嫌いかで言えば、たいへん好きです。とてもおもしろい。コンサルティングに関しては、よく戦略ファームは「絵だけを描いてそのまま逃げる」というような不満をクライアントから聞くこともありますが、リクルートは独自のいろんなソリューションを持って実行支援まで手掛けるので、クライアントにとって非常に価値ある仕事をしていると思います。それに、ヒューマンリソース関連のコンサルティングはリクルートにとっても新規事業で、しかも今後絶対に必要な機能だと信じていますので、そういう意味でも、意義あることをしていると思っています。
――仕事以外ではどのようなことをされていますか。
スキーや山登り、ダンス――ストリートダンスです、ヒップホップとか。それから人と人をつなぐのが好きなので、家に違う会社の人間を集めてホームパーティーをよくやります。あと今、教習所に通っていますので、4月半ばに免許が取れたらドライブを(笑)。
■生き生きと働くために
――仕事や生活の中で、どのようなことを心掛けていらっしゃいますか。
たいへんシンプルなことですが、ちょっとでもやりたいなと思って、三日くらい経ってもまだやりたかったらやる、ということでしょうか。やりたいことをやる。
――どうしてそういう心掛けを。
昔からそうだった気がしますね。親が常にそういうメッセージを発信していたかなと思います。迷ったらやれ、みたいなことを言っていましたし、やりたいことをやるというのを許容してくれていました。それに、そういう人は自分の周りにいっぱいいるんですが、そういう人って当たり前かも知れないけど生き生きしていて、話題も豊富で、人間的に魅力のある人が多くて、自分もそういう人になりたいと思ったのです。もともと、ついつい自分の見え方や周囲の評価を考えて、やりたいことをしなかったりするタイプの人間なので、敢えて、やりたいんだったらやれよ、と自分に発破を掛けている面もあるかなと思います。
――その心掛けによって、お仕事やご自身の人生全般について、どのような効果があると思われますか。
ひとつは、精神的に健康。常に幸せな感じで機嫌が良い。あまり抑えていることが無いので。あとは、やりたいと思ってやることを選んでいるので、基本的にモチベーションが高いし、良いパフォーマンスも出せると思います。好きこそものの上手なれ、という。
――以前、営業をされていたときと、好きな仕事をしている現在とで、パフォーマンスに差はありますか。
ものすごくありますね。パフォーマンスって、それまでに自分が持っていた能力でできる部分と、努力で創り出す部分とがあると思うのですが、昔と今を比較すればやっぱり後者が違うと思います。営業とコンサルティングはパフォーマンスの指標が全然違うので比較は難しいですが、やはり周りからの評価が違う。今の方が、きっと頑張れていますし、結果が出ている気がします。
――仕事や生き方に関して、女性として特別に何か心掛けていることはありますか。
女の人って、たぶん基本的に仕事はしやすいように感じます、特に日本の場合。でも、そこに甘えてしまうのだけはやめよう、と。男の人だったら「ごめん」と笑って済まされなくても女性だったら済まされるケースって実は結構ある気がしますし、自分もやってしまった事もありますが(笑)、それに頼るのはやめようと思っています。キャリアを考える上でも、子供を産むつもりもまだ無く、男性と同じ目線なので、「女性だから」というのは、特に無いですね。女性だから仕事し難いと感じたことも、幸いにも一回も無いですね。リクルートという会社の風土もあるかも知れませんが。お客さんと接する上でも、特に何もありません。
――ビジネスパーソンが自分を活かすためには、何を心掛けるべきでしょうか。
一つ目は、先程の話になりますが、やりたいことをやるべきだと強く思います。理由は言った通りで、その方がパフォーマンスも上がるし、生き生きと働ける。
二つ目は、自分を活かせている人って、人によって活かされている部分がすごく大きいと思うのです。いわゆるネットワークや人脈の活用ということですが、自分に足りないものを、うまく人の才能やリソースを活用して補って、吸収して、結果的に自分の成果を高めている。うまくギブアンドテイクしながらつながりを作るのは、自分を活かす上でとても大きいと思います。
三つ目は、いろいろと自分の世界を広げていくこと。いろんな世界に興味を持って視野を広げていくことで、自分を一番活かせる場所に出会える確率も高まると思います。私自身、浅く広くでも良いのでとにかくいろんな世界に興味を持っていきたいなと思っています。
――現代の世の中は移り変わりが激しく、どんどん変化していると思うのですが、その中で、ビジネスパーソンの生き方も変わってきているとお考えですか。
あくまで推測ですけど、以前は、そもそも「活き方」「生き方」みたいな概念があまり無かったのではないか、と思うのです。自分の生き方を考えるというのではなくて、与えられた所の中でしっかりやる、というような世界観だったのではないかと。一方、最近はちょっと過剰なくらいに「自分を活かす」とか「自分らしさ」とか叫ばれてブームのようになっていて、実際うまくそうやって自分を活かしている人と、トレンドに踊らされて苦しんでいる人とに二極分化している気がしますね。
――なるほど。現在、例えば成果主義ですとかリストラですとか、昔は馴染みの無かった概念が出てきて、生き方を考えるきっかけは多いと思います。そういう事態や風潮についてはどのようにお考えですか。
基本的には、そういうものでしょう、という考えですね。自分が会社に入った頃にも既にそういう風潮はあったので、普通のものとしてとらえていますし、本当にそんなもんだろうなという気はします。いわゆるアメリカンスタンダードのようなものが入ってくる中で、契約的な物の見方も広がっていくだろうし、それは既にもう普通だし、止められないような気がします。なので、それに踊らされたり巻き込まれたりという形ではなくて、逆手に取るくらいしたたかに生きていく方が良い。その方が楽しいじゃん、って気がしますね。ただ、企業の一方的な理由による成果主義とかリストラが日本ではすごく多いように感じるので、企業側のスタンスも変えていく必要があるでしょうね。リクルートとしても、そういうメッセージを発信し続けていくべきだと思っています。
――「踊らされるのではなく逆手に取る」。どのように考えれば逆手に取って生きられるでしょうか。
さっきの三つの心掛けでしょうか。それによって、プロとして譲れないものを創る。看板背負わなくてもお金を稼げるようなものが何かできれば、会社にしがみつく必要も無いし、交渉力も高まりますし。それを自分の得意領域や、ここでやっていこうと決めた領域で創ることじゃないでしょうか。そうすれば精神的にも安定するし、契約でも優位に立てると思います。
――まわりの人をご覧になって、そういうことを実現している人は多いと思われますか。
多くはないですが、確実にいます。今いる部署にも、「自分ブランド」を創ることにすごく注力して、成功している人がいます。彼らを見ているとやはりとても交渉力が強いですね、会社や社会に対する交渉力が。私のまわりには、そういう所を目指してもがいている人が多いかなと思います。
――そういう人に共通するものは何でしょうか。
自分なりの美学を持っていて、ここは自分がやる領域だ、という線引きをはっきりしている気がします。線引きをして、それ以外のことに対しては余計な力を使わない。その領域内のことについては、いろんな人や時間を使って頑張っている。その二つですね。自分なりの美学と線引き、そしてそれに対して努力を惜しまないこと。選択と集中ですね。
■自分なりの「美学」を持つ
――そのような植垣さんの生き方や考え方は、入社当時からお持ちでしたか。
入社当時は無かったと思います。そもそも仕事というものがどういうもので、自分にとってどれくらいの影響があるのかということが、最初は全然わかっていなかったのです。なので、仕事と自分なりの美学というものの結び付きも、結び付け方もよくわかりませんでしたし、結び付けるのは我儘だと思っていました。
――では、入社当時はどんな働き方をされていましたか。 がむしゃらに?
がむしゃら、ではなかったなあ。ということは自分なりの線引きはあったのかな。まわりの同期などは、すごく素直な人たちで、先輩などに言われたことを全部聞いて全部吸収して全部実践するっていうタイプの人が多かった。私は天邪鬼なので、やりたくないことはやらなかった。例えば、お客さんの前で半日待ち伏せして受注取るとか。そういうのは営業としては必要なのだろうけど、なんだか受け入れられなくて、勝手に取捨選択して、やらなかった。だから、それなりに線引きはしていたんですね。今振り返ると、やらなかった事によってロスした事もたくさんあったと反省していますが。
基本的に、美しいとか美しくないとかで決めていたきらいがあります。格好良いか格好良くないか、というような。生意気ですけど。それをやっている自分に誇りに思えることならやるし、やっている自分を客観的に見て嫌だなと思うことならやらない。そういう線引きですね。昔からずっとそういう線引きをしてきたのだと思います。
――美しいか美しくないか、誇りに思えるか思えないか、は具体的にどんな基準で判断されるのですか。
自分がものすごく頑張っている姿はあまり見せたくない。それを隠して、結果はすごい、というのがスマートだし美しい、というのが基準かと思います。
――あくまで結果を出すことにこだわる。
実態は別にして、そうありたいと思っています。入社した頃は、自分がすごく未熟で、頑張っているプロセスは見せたくないけれども結果をすごいものにしたい、という思いは強かったのですが、その結果を最大限良いものにしようという努力は、実は弱かったのです。なので、入社当時から結果にすごくこだわっていたというわけではなかったですね、弱い人間でしたから。それを今までの5年間で少しずつ強くしてきた。今もまだまだ強化中ですが。
――そういった努力や植垣さんなりの生き方などを、入社時からこれまでに、どのようにして身に付けて来られたのでしょうか。
やっぱり、まわりにいる人の影響ですね。ああ、素敵だな、と思える人は、やっぱりそのような行動をしていました。そういう人と接する中で、お話ししたような考え方に至ったのだと思います。そのために何をしたかと言えば、それはやはり今までお話した四つを常に頭に置いて努力することだけですね。
――その四つを持っている方、素敵だと思われる方とは、どのようにして出会ったのですか。
幸いなことに、節目のときにそういう人が現れてきてくれました。最近は、そういう人にちょっとでも関わる機会があったら必ず連絡を取るようにしています。
■「道標」と「支え」となる人を
――今年も入社の季節になりましたが、現代の若手ビジネスパーソンをご覧になっての印象やお考えなどありましたらお聞かせ下さい。
頭の良い人が多いですね。お勉強という意味ではなく、物事の本質を見抜く賢さを持っている人が多いです。あとは、本質的には自分と変わらないなと思います。いろいろ悩んでいたりして、聞いてみると自分が新入社員の頃の悩みと同じだったり。例えば、自分の美学に反することが会社では推奨されることとかですね。
――これだけ変化の激しい世の中、生きる上での道標のようなものが見え辛くなっているように思いますが、それについては如何でしょうか。
自分の道標になる人を早く見つけることじゃないでしょうか。会社の中にということではなくて、それこそ芸能人とかでも良いと思うのですが、自分はこの人になりたい、というような像ができてくれば、自分なりの美学とか線引きとかも、選択と集中も自然にできるでしょうし、類は友を呼ぶだろうし、うまく回るような気がします。まずはやっぱりそれでしょう。こんな人になりたいという具体的なイメージを早く見つけること。
そんなに難しいことではないと思いますよ。結構、人間って簡単に人を好きになったりするじゃない? それと同じで、基本的に人間は、いろんな他人に対する興味を持っていて、性善説的に人を受け入れられる土壌があるような気がします。だからこそ人を好きになるのだろうと思います。それが強固なものになるか、ころころ変わってしまうかは会った人によるし、運命とかタイミングとか、神様の領域になってしまうと思いますけど。
――ネットワークと言うと陳腐な言い方になってしまいますが、現在、交際範囲はどのようなものでしょうか。
まだとても狭くて、高校時代や中学時代の知り合いで、東京で仕事している人たち、それから大学のときの知り合いと、リクルートの中の人、それからリクルートの仕事で接点のあったパートナー会社の人たちとか、その人たちを通じて知り合った人たち、そんなところでしょうか。自分としてはまだまだすごく狭いと思っています。そういう人たちとは一緒に仕事もするけど普通に遊んだりもします。スキーしたり。一回付き合ってしまうと、深く付き合わないと気が済みませんね。
――人と会うときに心掛けていることは。
笑顔。第一印象が大事ですから。それから、根掘り葉掘り相手のことを聞くことですね。なるべく深くつながりたいので、いろんな方面から相手のことを聞きます。やっていることとか、今までしてきたこととか、その理由とか、いろいろと。小さい頃から小説が大好きで、人の心の機微とか興味津々で聞いてしまいますね。
――最後に、本誌の読者である若手のビジネスパーソンや学生に対してメッセージをお願いします。
今の若い者は自分のやりたいことばかり主張して義務をまっとうしないとか、自分らしさを追求して文句ばかり言うとか批判をよく耳にしますが、そんなノイズには惑わされずに、自分のやりたいことをやってしまえばいいと思います。勿論、そこに付随して発生する責任は全部背負った上でのことですが。
それから、そうするための精神的な支えとなる良い恋人をちゃんと捕まえておくこと(笑)。そのような存在がいるのといないのとでは大きく違うと思います。自分は自分のやりたいことをやって、相手もやりたいことをやって、という関係がとても良いと思いますけど、そういうのは意外に世の中には少ないみたいで、いろんなことを制約されて苦しんでいる女性や、勝手にがんじがらめになっている男性が、結構多い気がするのです。
そういう関係をつくるための秘訣ですか? 私ってこうじゃないと私じゃなくなる、というようなことをアピールするとか、変に我慢しないこととか、相手が言うことにもふんふんって聞いて手を差し伸べてみるとか、自分のやりたいことについてよく喋るとか……。男と女の話なので、よくわかりませんが(笑)。
――ありがとうございました。
植垣晶恵〔うえがき・あきえ〕氏
株式会社リクルート HCソリューション事業部 コンサルタント。1976年生まれ、28歳。京都大学工学部物理工学科卒業。㈱リクルートにて、製薬・食品・素材等大手メーカーを中心とした人材採用領域のソリューション提供に従事した後、2003年、同社の新規事業である「人と組織」に関するコンサルティングサービスを提供するHCソリューション部に異動。これまでに、某印刷会社の新規事業創出支援プロジェクトやシステム会社の戦略編纂プロジェクト、大手飲料メーカーの人材開発支援プロジェクトに関わる。趣味は、スキー、登山、飲酒、車(予定)等。
※この記事は2004年5月発行『New Beginning』第3号に掲載(肩書き等は当時)。


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