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Interview

育児休暇でキャリアを磨く:小室淑恵氏〔資生堂販売〕

資生堂が販売し、既に80社以上の企業が導入したインターネットを活用した育児支援プログラム「wiwiw(ウィウィ)」。企画・開発したのは当時入社2年目だった小室淑恵さん。「育児休暇をキャリアブランクではなくブラッシュアップの期間にしたい」と語る次世代ビジネスリーダーに、育児関連ビジネスに求められる発想と視点、その先に見据える社会の未来像を聞きました。

育児休暇でキャリアを磨く―旧来の価値観を覆す新サービスを創造
小室淑恵氏〔資生堂販売〕

――育児支援ビジネスを志したきっかけは大学時代に遡る。

大学3年生のときまでは普通の女子大生でした。サッカーサークルのマネージャーなどしていましたし、女性のキャリアという問題についても、育児と仕事は二者択一の関係にある、という偏見の中にいたのです。

価値観が180度変わったのは猪口邦子さん(国際政治学者)の講演を聴いたことがきっかけでした。猪口さんは、仕事で成功していながら、女性としても素敵な方なんですね。それで、「両立ってできるんだな」と。むしろ、二者択一だと捉える見方は、一種の言い訳なんじゃないだろうかと。両立可能なことを、彼女の存在が実証しているわけですから。

ショックを受けた一方で、すごく希望が湧いてきました。女性であることはハンデではなく強みなのです。これから女性の社会進出がますます進めば、女性が欲しがる商品やサービスを提供できるかどうかが企業にとって大きな課題になる、それを創れるのは女性でしょう。だから、もっと努力しないと勿体無い、と。


■キャリアブランクからブラッシュアップへ―育児休暇の意味は変えられる

――自分の可能性を広げようと決意した小室さんは、その後一年間大学を休学、単身でアメリカに渡る。そこでベビーシッターのアルバイトをしたことが、もう一つのきっかけをもたらした。

住み込みでベビーシッターをする中で、「育児はキャリアにおいてマイナスだ」というイメージを覆す人に出会いました。育児休暇中にインターネットで勉強して、資格を取って、給料も職位も休業前よりワンランク上げて会社に戻っていく人が、アメリカにはいたのです。

昔は、育児をしながら大学や資格の教室に通うことは時間的にも物理的にも難しかったに違いありません。しかし、インターネットのある現代は、時間と場所を越えられる。それを活かせば、育児休業期間を、キャリアにとってブランクではなくブラッシュアップの期間にすることが可能なのです。

キャリア形成を長い目で見た場合も、育児休業を取得する概ね20代後半から30代前半の期間は、自分のそれまでのキャリアを見つめ直すのに良い時期です。現在の自分と目標にしている自分との距離を見つめて軌道修正する余裕もありますし、その間を埋めるための具体的なアクションを起こすことができます。

それを体現している女性にアメリカで出会って、こういう考え方を日本人も持てたら良いなと思いました。これまでの日本社会では、子育てをすると言えば、会社はその人がキャリアを諦めたのだと見做し、本人も「会社に申し訳ない」とか「同期に遅れを取ってしまう」と思ってきました。でも、それは変えられる。――これが私のテーマだ、と思ったのです。

■女性の視点を活かす―「wiwiw(ウィウィ)」の誕生

――帰国して資生堂に入社。女性が活躍している職場であることが入社の決め手だったという。そのカルチャーを活かし、小室さんは入社直後から積極果敢に動き出す。入社2年目で社内公募のビジネスモデルコンテストに応募した。

入社年次に関わり無く誰でも応募可能というので出しました。ただ、103件の応募のうち、101件は男性によるもの。資生堂は社員の7割が女性ですが、それでもこういう状況なのか、と思いましたが、プレゼンの勝ち抜き戦を通過してグランプリに選ばれた2件は、いずれも女性の提案でした。入社年次や性別に捉われずに正当にアイディアを評価していただいた。これが資生堂だ、と思いました。

もう一人のグランプリ受賞者は美容部員で、社内のキャリアとしてはいわば“本流”ではない人。固定化した枠の中にいない人だからこそ、新しいアイディアを生み出せる。そして、女性のマーケットが広がるにつれて、女性の発想は企業の大きな戦力になる。だから、そういう人たちが活き活きと働ける状態を創ることが、その人自身にとっても企業にとっても必要だと、この体験を通じて痛感しました。

――受賞したビジネスモデルをもとに、育児休業支援プログラム「wiwiw(ウィウィ)」を立ち上げ。翌年には企業への展開を開始した。

当初、企業への営業は鳴かず飛ばずでした。女性は結婚したら辞めるものだ、と考えている企業が、数年前までまだまだ主流だったのです。「それは女性社員が多い資生堂さんだからすることでしょう。うちにそんな余裕も必要も無い」と。

追い風になったのは次世代育成法(次世代育成支援対策推進法、2003年7月公布。301人以上の労働者を雇用する事業主に育児環境整備の取り組みを義務付け)ができたことです。育児支援のプログラムを自社で一から開発するのは大変ですから、「wiwiw」を導入する企業が次々に現れました。

■女性にとって「学び」は「癒し」―コミュニティ形成とステップアップの感覚が重要

――「wiwiw」はEラーニングのプログラムを提供するだけでなく、育児休業中の女性と職場とが連絡を取り合うツールとしての機能を持つ。円滑な職場復帰のために、本人と職場の双方をサポートするプログラムだ。

開発段階では、社内に反対の声もありました。「Eラーニングには参入障壁がないだろう」と。しかし、通常のEラーニングのプログラムでは育児休業中の方には対応できないのです。例えば、育児をしていると長時間まとまった学習時間を確保することは難しい。そこで「wiwiw」では一つのレッスンを通常の45分単位でなく15分単位で編集しています。そういう工夫があります。

また、プログラムの利用者の間でコミュニティができるように設計しているんです。掲示板でアドバイスをし合うことで、育児や職場復帰に関わるノウハウが内部に蓄積されていく。利用者は、登録すればすぐに膨大なノウハウに触れることができる。こうした工夫やノウハウの蓄積は、一朝一夕にできるものではありません。育休者が常時300人ほどいる資生堂だからこそ可能なことで、それが参入障壁になっているのです。

――育児休業中の女性が、ラーニングによってステップアップの感覚を得られることが重要だという。社会から立ち遅れていない、という安心感を得ることができる。

出産直後は忙しくて周囲に目を向ける時間に乏しい。3、4ヵ月後に時間が少しできたとき、社会が動いているのに自分は流れに取り残されている、という意識が生まれがち。社会に戻る自信を失う人が少なくありません。それが子どもや家庭に対するネガティブな感情を生むこともあります。子どものせいで自分が錆びていくと感じたり、場合によっては虐待につながったり。

だから、学ぶことが必要になります。ラーニングの中身以上に、自分がステップアップしている感覚を得られることが重要。育休中の女性にとって、「学び」は「癒し」なのです。

それに、仕事に熱心な人ほど、優秀な人ほど、育児によって「失ったもの」を意識してしまいがちなのです。それを払拭しないと優秀な人ほど子どもを産めない社会になってしまう。育児と並行して学ぶことで、子どもの成長と共に自分も成長するんだ、という価値観を持ってほしいですね。


■育児支援の充実が、家庭を、社会を豊かにしていく

――育児とキャリアの両立が当たり前のことになれば、家庭や社会の在り方は大きく変わる。ビジネスの先には、あるべき未来が描かれている。

これまで、「父親は仕事・母親は育児」という家庭内分業によって、成長する過程で母親の影響しか受けられない子どもが多かったのではないかと思います。それは子どもにとってとても不幸なことでしょう。父親も母親も同程度に育児にコミットできれば、子どもは違う人間の価値観に触れながら育つことが可能です。そのことが、自分と違う価値観の人や、多様性を受け容れられる寛容さを育むと思うのです。

従来の家庭内分業には、女性の収入が不安定だから男性が収入を一手に担うという側面がありました。だから男性は家庭を顧みずに働いたり、過労も厭わず働いたり、嫌なことでも上司に抗うことができなかったり、夢を犠牲にしたり――、それは男性にとって非常に大きなプレッシャーになります。女性にとっても、男性に夢を追わせてあげられないとか、犠牲を強いてしまうことは、辛いことになりますよね。

だから、どちらもしっかり働けるような社会、どちらも夢を追うことができる社会にならなくては。女性がしっかりと雇用される社会にならなくてはいけません。そのために、まず会社を変えることが必要。そう考えて私は行動しています。

――「こんな自分でありたい」「こんな社会であってほしい」に応えることが、ビジネスの本質であり成功条件に違いない。2004年には日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた小室さん。高い理想を抱き、大きな成果を挙げつつ気負わず、しなやかに生きる。そこに新時代のビジネスリーダーの姿が見える――。

小室淑恵〔こむろ・よしえ〕氏
資生堂販売株式会社川崎支社 育児休暇システムwiwiw 開発グループマネージャー。学生時代、1年間アメリカに滞在、女性が育児とキャリアを両立している姿を目の当たりにして衝撃を受け、育児と仕事の両立支援を自らのテーマと位置づける。インターネットベンチャーでのインターンシップ等を経て、大学卒業後、株式会社資生堂に入社。奈良支社に配属後、1年という異例の速さで本社経営企画室IT戦略担当に抜擢。同社の経営企画・経営改革を進める傍ら、女性が働きやすい社会を実現するために、インターネットを利用した育児休業支援プログラム「wiwiw(ウィウィ)」を自ら立ち上げ、社内起業家として社内外から脚光を浴びる。「育児休業期間をブランクからブラッシュアップの期間にしたい」と、その普及に努めている。同プログラムは現在約80社が導入している。ウーマン・オブ・ザ・イヤー2004・キャリアクリエイト部門受賞。

※このインタビューは2005年4月に実施。肩書き等は当時のものです。

date: 2005.06.02

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