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特定非営利活動法人MPI (2004年内閣府認証取得) |
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MPIdea大学の「顧客ロイヤルティ」向上戦略(井上元作)昨今、大学の多くが経営不振に喘ぎ、次代を見据えたビジョンと戦略を明確に描き出せていない。激化する競争の中、大学はいかにして生き残りを図るのか。そのためにはどのような視座に立ち、どのような戦略を立てることが必要なのか。本稿では大学の「顧客ロイヤルティーの向上」を課題ととらえ、その実現のための視座を提示する。 大学を取り巻く環境の変化 ここ数年、大学関係者の頭を悩ますような環境の変化を挙げると枚挙に暇が無い。 まず学生数の減少がある。文部科学省の統計によると、18歳人口は平成4年度の約205万人をピークに年々下がり続け、平成15年度においては約 146万人。約3割の減少である。現在はまだ進学率が上昇していることにより、少子化の直接的なインパクトは多少緩和されているものの、それが限界を迎えるのも時間の問題であろう。 学生数が減少する一方で、大学の数は増加している。驚くべきことに、私立大学は平成4年から平成12年の間に100校近くも設立されている。内訳としては、まったく新規の大学の設立の他、短期大学の4年制大学への転換が多く見られる。4年制への進学率上昇により入学者獲得が難しくなった短期大学の苦し紛れの選択だ。こうした動きにより、現在の大学界では、減りつつある需要(学生)を多数の大学で奪い合う構図が先鋭化している。 また、社会的に大きな話題となったのが、国立大学の独立行政法人化である。これまでの全国画一の護送船団的な事業運営が排されたことで、各大学の特色を前面に押し出した経営と競争力の強化が否応無く求められるようになった。 競争激化を後押しするように、これまでに無かったタイプの大学の新規参入も始まっている。司法試験対策などで定評のあるLEC(東京リーガルマインド)や、IT教育のパイオニアであるデジタルハリウッドによる、株式会社大学の設立の動きだ。既にLECは第一期生を入学させており、デジタルハリウッドも大学院の授業を開始、2005年度からは学部の授業もスタートする予定である。両者とも、社会ですぐに役立つ実用的な教育を行なうことを目標として掲げ、既存の大学との差別化を図っている。 マーケットの縮小と新規参入の増加、それに伴う競争の激化。このように、既存の大学を取り巻く環境は、かつてなく厳しいものになっているのである。
こうした状況の帰結として、「Fランク大学」の増加という事態が見られるようになった。Fランク大学というのは、いわゆる定員割れの大学で、定員が割れているために偏差値の算出さえできない状態にある大学や学部のことである。 日本私立学校振興・共済事業団の調査データによると、平成12年の時点で入学定員充足率が100%以下の大学は全体の3割弱、短期大学では6割弱である。入学者数の減少は経営を直撃する。現に2003年には、広島県の立志館大学が休校に追い込まれるという事態が生じた。 こうした事実からわかるように、既に大学ごとの競争力に差が出始めているのが現状であり、今後ますますこの傾向は強まると予想される。既存の大学がばたばたと倒産する事態も、このままでは避けられないであろう。危機は既に顕在化しているのである。 それほど厳しい環境にあるにもかかわらず、残念ながら、多くの大学は何ら有効な対応策を打ち出せていない。これまで取られてきた施策の多くは「学部・学科の新設」や「授業料の値上げ」という場当たり的、短絡的な愚策でしかない。そのような取り組みによって収入を一時的に嵩上げできたとしても、それはあくまで短期的な効果しか発揮せず、根本的な問題の解決にはならない。逆に長期的に見ると、時代のニーズに合わなくなった学部・学科の「不良債権」化、授業料引き上げへの不満による学生の離脱、他校と比べての価格優位性の喪失というネガティブな結果を生み出すだけである。
図表1は、先日ある格付機関のAA+の格付けを取得した都内某大学の収入の内訳である。大学の収入源には、大学生から徴収する授業料、入試の際の検定料、国からの補助金、OBや企業からの寄付金、事業収入、資産運用などがあるが、グラフを見て分かるように、収入のうち約50%を占めるのが、学生や受験生から受け取る授業料や検定料なのである。 最近話題の「産学連携」によって事業収入を上げることも有益な取り組みであるに違いないが、大学にとって最も重要なのは、やはり「学生」である。つまり、いかに多くの学生に受験してもらうか、いかに多くの学生に入学してもらうかが、大学にとって絶対に避けられない重要な課題なのである。多くの大学関係者は「そんなことは分かりきっている」と言うかもしれない。しかし、果たしてどれだけの大学がその課題を直視し、その解決に戦略的に取り組んでいるだろうか。単なる授業料引き上げによって一時の収益アップを図っているような状況では、この根本的な課題から目を逸らしていると言われても仕方あるまい。
いかにしてより多くの学生を惹き付けるか。この課題を考えるには、まず受験生がいったいどのような基準で大学を選んでいるのかを知る必要がある。手元に幾つかの統計データがあるので紹介したい。 関西大学経済学部が2001年に行った調査の中の、「大学進路選択理由」という設問に対し、「非常に重視した」という答えの割合が高かった回答の上位3つは以下の通りである。 1位:「偏差値」 その他の選択肢には、「施設・整備」、「学費」、「学習環境」、「資格取得」がある。特定の大学で行われたアンケートであり、若干のサンプルの偏りには注意しなければならないが、1位の「偏差値」を気にするのはごく自然なことであろうし、3位の「就職・進路」についても、昨今の就職活動の厳しさを踏まえれば、高校生が進路選択の際に特に重視するポイントとして挙げるのは頷ける。そうした観点からすると、このアンケートの結果はごく一般的な意見として考えて良いのではないだろうか。 さらに、チャイルドリサーチ研究所が行った調査(図表2)では、高校生の大学選択基準の傾向として「堅実さ」が目立っている。「有名な大学である」、「有名なOB・教授がいる」といったミーハーな選択理由は非常に低く、「学びたいカリキュラムがそろっている」、「取得できる資格がある」、「就職率が高い」などの基準に対する支持率が高い。ちなみに偏差値が低い高校になればなるほど、この傾向は強いようである。 この調査結果からは、多くの高校生が、将来やりたいことをやるための「手段」として大学を捉えていることが読み取れる。名前に踊らされるのではなく本当に良いもの、自分に適したものを見極めようとする「賢い消費者」と同様の視点を、大学の顧客である学生もまた、持っているのである。
このような判断基準に基づき、学生は自分の受験する大学を決める。「この大学のカリキュラムは魅力的だ」、「あの大学の卒業生の就職先には魅力的な企業が多い」、というように。その際、個々の大学についての情報がどれだけ存在するか、その情報を学生がどこから得ているか、が次に着目すべきポイントである。 大学選別の判断の基となる情報は、テレビ・新聞・雑誌・インターネットなどのマス媒体は勿論のこと、身近なところでは、親や学校の教師や先輩を通じて収集される。 こうした情報を集めるプロセスは、我々が一般にモノやサービスを購買・選択する際にも同様に辿るものである。では、その際に我々は、幾つもある情報の中でどのような情報を重視し、信頼するだろうか。 数ある情報ソースの中で、情報として最も説得力があると思われるのは、企業から直接発信される情報ではなく、実際にそのモノを購買した「顧客の声」である。 例を挙げると、インターネット通販のアマゾン(www.amazon.com)やカカクコム(www.kakaku.com)では、実際にそのサイトを通じて本や家電を購入した読者や利用者のコメントや、顧客が自らその商品を採点したレーティングを参照することができる。筆者の実体験でもあるが、これら実際の利用者から発せられる情報の影響力は非常に大きい。広告を見て興味を持った本を買おうと思っていても、アマゾンに掲載されている評価が低い場合、購買するのを躊躇することがある。逆に、ふと目にした利用者の声に勧められ、衝動買いしてしまうことも多々ある。 これを大学の環境に置き換えて考えてみると、「顧客の声」イコール「在校生・卒業生の声」となる。つまり、彼らが発信する情報は、高校生の進路選択に与える影響が極めて大きいと考えられるのだ。
上記のことから明らかなように、大学がより多くの学生を惹き付ける上では、在校生・卒業生の発する「顧客の声」が十分な満足感を伴ったものであることが必要となる。 現在、収入の伸び悩みに頭を痛めている大学は、この点について思い当たる節がないだろうか。その大学の学生や卒業生は、大学に対して十分な支持を表明しているだろうか。多くの大学は、学生から満足いく支持を得ていると自信を持って宣言できないのが現状であろう。 従来から、競争的環境に置かれた業界では、顧客満足(Customer Satisfaction)の向上が重要な課題として認識されてきた。特に「成熟産業」と言われる業界においては、「顧客ロイヤルティー」をいかに高め、維持するかという戦略が注目され、実践されている。 ロイヤルティーとは、「顧客や社員などが金銭的もしくは個人的な犠牲を払ってまでも、企業とのリレーションシップを強化したいと望むこと」と定義される。 ロイヤルティーの高い顧客は、自ら無償で新規顧客を集めてくれ、企業の成長を促してくれる。例えば、自己の事前の期待を上回る価値を経験することができた消費者は、利用したモノやサービスに対して満足し、好意的な情報を発信する。その「顧客の声」が新たな顧客を呼び、企業の成長を後押しするのだ。上記で触れたアマゾンの例がまさにこれに該当する。 通常の顧客獲得の施策では、広告宣伝等のマーケティング費用が嵩み、企業の収益が圧迫されるが、ロイヤルティーの高い顧客が口コミで評判を広めることに関しては企業側のコストは一切かからない。顧客ロイヤルティーの向上を図ることは、こうした意味でも極めて有益な取り組みなのである。 これを裏付けるように、顧客ロイヤルティーの高さと企業の利益成長率の間には、強い相関関係が見られる(フレデリック・F・ライクヘルド)。この傾向は程度の差こそあれ、どの業界にも確認されている。原因と結果の関係に基づいて考えてみると、利益に成長が見られない企業は、顧客からの満足を得られていない可能性を否定できない。顧客ロイヤルティーを確保しないことは、企業の事業継続や成長を阻害する一つの要素と見做すことができるのだ。 こうしたことは、現在の大学が立たされている状況にぴたりと符号している。大学が顧客満足度の向上という課題に対する取り組みを怠ってきたとすれば、それは現在の大学経営の混迷をもたらした一つの重大な要因と考えられる。そして、マーケットの縮小に直面している「成熟産業」である大学にとって、顧客ロイヤルティーの向上が極めて重要な課題であることも理解できよう。 これからの大学は、顧客ロイヤルティーの向上に寄与する大学経営に努め、それによって在校生・卒業生の発する「顧客の声」を満足感に満ちたものとし、最大の収益源である入学者・受験者の獲得につなげていく、そうした好循環を生み出さなければ、競争激化の中で生き残っていけないのである。
これまで論じた、大学生が大学を選ぶ基準、顧客ロイヤルティーといった観点から、これから大学が数ある改革すべきポイントの中で、すぐにでも始めることが出来るポイントを2つ程挙げてみたい。「授業の質の向上」と「大学生のキャリア教育」の改善である。 授業の質の向上に関しては、恐らく誰もが、ごく当たり前のテーマと思うだろう。しかしながら、多くの大学はきちんとした成果を残していないのが現実ではないだろうか。では実際に効果を上げるためには具体的にどのように行動すればいいだろうか。 ビジネスシーンにおいて改善活動を行なう際にしばしば使われるのが、プロセス毎にKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定し、そ 「授業」というサービスを各要素に分解してみよう。関係するのは、「教授」と「学生」の二者。そして、その二者の間には、教授が提供する「講義」が存在する。これら「教授」、「学生」、「講義」という3つの要素それぞれにつき、KPIを設定する。 KPIの例としては、教授の場合「対外的な論文発表本数」・「プレゼンテーション・スキル」・「板書・レジュメの品質」、学生の場合は「出席回数」・「テストの点数」・「授業内発言数」などが考えられる。講義については、「学生の満足度」、「学生の理解度」、「卒業生による満足度(実務にどれだけ役にたったか)」といったところであろう。 目標とするKPI値に対して実際の値が低かった場合、それは対象者のペナルティーに連動する必要がある。極端な例かもしれないが、教授の場合、減棒や解雇、生徒の場合であれば、退学勧告や、最悪なケースとしては強制退学ということも検討に値しよう。逆に実際の値が目標値を上回ったときは、十二分な報酬を受け取る権利が与えられるべきである。 ここで注意しなければならない点が二つある。評価を行なう以前に、学校として学生に何を提供したいのか、何を身につけさせたいのかという理念や目標を、ある程度明確にしておかなければならないということだ。また、学生が授業から何を得ることを期待しているかを把握しておくことである。現役の学生や OBにヒアリングを行ない、一般教養を身につけたいのか、実用的な技能を身につけたいのか、資格を取得するのに役立つ内容を求めているのかなどを把握しなければならない。これらの意見を集約して、何をKPIとして設定すれば良いかを定義するのだ。 こうしたシステムに対しては、不真面目な学生も授業の評価に関わることを避けられないため、適切な評価ができるだろうかという反論もあると思われる。確かにそうした懸念は存在するが、一方で大学側が生徒の評価を忌憚無く行ない、不真面目な学生を大学から排除することによって、学生側のモラルも徐々に向上することが期待できるだろう。 アメリカを代表するビジネススクールであるハーバード・ビジネススクールでは、毎年、下位の一定数の生徒が強制的に退学になるそうだ。そのため、学生は寸暇を惜しんで勉強に打ち込み、授業中も競って積極的に発言するなど、熱気に包まれているという。そうした環境が、社会的に高い評価を得られる人材を育てていくのである。 教授も学生も緊張感を持って授業に臨むことで、授業の内容は洗練され、結果として学生の満足度も向上するのである。
大学の存在意義を、純粋に学問を学ぶ場としてのみ捉えるのは現実的とは言い難い。卒業するほとんどの学生が社会に出て働くことを考えれば、大学は社会に飛び出す前の準備段階とみなすことが可能である。国立大学の中には、少し以前までは就職課すら設けず、就職活動の支援など「どこか俗なこと」と手を付けずにいた所もあるというが、顧客のニーズは異なっている。 厚生労働省の調査によると、入社3年目までに退職した新入社員の割合は2000年で36.5%にまで上る。退職理由の内訳を詳細には把握していないが、社会に出て課せられるハードルの高さに戸惑い、理想と現実のギャップに悩む、といった事情が少なからず挙げられるであろう。 こうした問題は昔から存在しなかったわけではないが、特にバブル崩壊以降の社会環境の変化の早さ、企業の採用活動の早期化などを背景に、その問題は増加してきたものと思われる。もはや大学は学問を教える場所という一義的な存在ではなく、一般的な教養をベースに、その一歩先に求められる、社会に出て活躍するための力を養成する場とならなければならない。働くとはどういうことか、世の中にはどのような職業が存在するのか、社会に出て働くためにはどういうスキルが必要なのか。それを学生に意識させ、気づかせてあげなければならない。 具体的な施策として、読む・書く・話すといった基本的なスキルの向上、キャリアプラン・アドバイス、インターンシップの推奨、若手の社会人との交流の場の提供等などが、現実的かつすぐにでも実現可能なものとして考えられる。 重要なのは、こうした取り組みを、就職活動を目前に控えた3年生にではなく、1、2年生の学生をも対象として、徹底的に指導することである。学生は、将来のビジョンをイメージできるようになれば、学問に対しても自ずと真剣に取り組むようになる。早く気づけば気づくほど、残りの学生生活をより有意義に過ごすことができるのだ。 筆者が通っていた大学は、例年、企業の採用担当者から高い評価を得ているようである。当時を振り返りつつ、他大学を卒業した友人と話していると、学校全体の雰囲気の違いに気づく。筆者の通った大学では、多くの学生が、それぞれの方向性は違うにせよ、将来についての意識を高く持っていたということだ。恐らくそのことが、大学全体の活気につながっていたのでは、と今になって思う。 一般的に、大学の偏差値と就職の実績とが相関しているように見えるのは、そのような学内の雰囲気が学生の意識によって形成されるからだと言えるかもしれない。大学は、学生のキャリア教育に取り組むことで、学生のモチベーションを高めることができ、そのことが大学全体の活況につながるかもしれないのだ。
大学の生き残りのためには、この他にも、入試方式の工夫、多様な奨学金プランの整備、学習・研究施設の充実、卒業生に対する教育サービスの展開、産学交流、といった分野の取り組みも必要であろう。 その上では、在校生や卒業生に評価を行なってもらい、何が良くて、何が悪いのかを客観的に認識することが必要である。そして更に重要なことは、その場しのぎや、一時的な取り組みで終わらせるのではなく、「継続的に」改善活動を行なうことだ。トヨタの「カイゼン」活動の例を挙げるまでもなく、ビジネスシーンにおいて、Plan→Do→Check→Actionのサイクルを常に回し続けることは定石である。 そして最後に強調したいのは、大学の独り善がりの改革ではなく、あくまでそれが、結果的に学生にとっても価値のあることを実行してほしいということだ。 戦国時代に最強とも謳われた武将・武田信玄が残した有名な言葉に「人は石垣、人は城」というものがある。誤解を恐れずに言えば、「一番大事なものは、人なのです」という意味だ。他の大名が豪華な城の建築や蓄財に励んでいた時代に、信玄はこの言葉を掲げ、屈強な勢力を築き上げた。 この言葉をそのまま現代の大学関係者に伝えてみたい。大学にとって一番大切なのは、やはり「学生」なのだ。施設でも教授でも大学名でもなく、そこで学んでいる学生が、その大学そのものなのではないだろうか。 これから先、それぞれの大学が、そこで学んでいる学生のことを真剣に考え、良質な授業を施し、学生の目標達成のために最大限のサポートを実践することを期待してやまない。
date: 2005.04.03 |
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