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Interview

リーダーを育てる社会・文化を育もう:吉田哲也氏(グロービス)

「リーダー不在」が嘆かれて久しい日本。それは長引く経済の不振の根本に巣食う問題でもある。この状況を打破し、新たなリーダーを育んでいく国になるためには、どのような取り組みが求められるのか。コンサルタントとしてリーダーシップ教育を手掛け、各界のリーダーとの親交も深い㈱グロービスの吉田哲也氏に聞く。

リーダーを育てる社会・文化を育もう
吉田哲也氏 〔株式会社グロービス シニアアソシエイト〕

■リーダーシップとは何か

――リーダーシップをどのようなものとお考えですか。

たとえて言うならリーダーシップとは、道なき道において一灯をともして人を導いていく処方です。掲げる一灯とはその人のビジョンであり、道を経験と知恵と直感から探して歩き続ける。それはすべての分野、例えばビジネスであろうと政治であろうと通用するものだと思います。それに対して、マネジメントとは限られた枠の中で何らかの目標を設定し、リソース(資源)を結集して100%もしくは120%の力を出すための施策を打ちながら目標を達成するために行なうものだと思います。そういう意味では、旧来のマネジメントならば「道なき道を行く」必要はありません。あくまでも与えられた範囲の中で目標を達成するものです。

ですから、リーダーとマネージャーの違いは、リーダーは自らの責任で目標を立てて動いていくのに対して、マネージャーはあくまでも与えられた目標を達成していく、という点にあります。

――では、吉田さんにとっての理想のリーダー像とは。

固定的な理想像というのは無いのですが、いろいろなリーダーと接してきた結果、皆さんそれぞれの場において自分がやるべきことを認識していらっしゃるな、と思います。また、志の高さや一定レベル以上のリーダーとしての能力の高さなどは共通して感じます。その上で、私としては前原衆議院議員やグロービス社長の堀義人さん、そしてウィルシード社長の船橋さんなどは、やはり尊敬しています。

――リーダーとして認められるためには、どのような能力を兼ね備えている必要があるとお考えですか。

グロービスで定義しているビジネスリーダースキルとしては、コンセプチュアルスキル(論理的思考力)、ビジネスフレームワーク(マーケティングやファイナンス等の知識)、ヒューマンスキル(組織を導く力)、この三つがトライアングルとして機能しつつ、リーダーとしての行動と態度を備え、それらの五つのスキルをWILL(意志)にて統合している人と認識しています。

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――それらの能力は後天的に習得が可能でしょうか。もし可能とすれば、どういう形で習得するのですか。

図の上半分のトライアングルは研修等により教えることができると思いますが、行動や態度、ましてやWILLになるとなかなか難しい。やはりそのあたりは相対的に先天的な部分が多いと思います。最近は行動変革のための研修もありますが、それはあくまでも受講者に対して「気づき」を与える場を提供することであって、その研修を受ければ自動的に行動が変革されるものではありません。そういうものはやはり実際にリーダーと接しながら、現場で仕事を通じて学んでいくのだと思います。

――「親父の背中を見て育つ」というような。

そうですね。それに加えて大切だと思うのは、接するだけじゃなく、その人もしくはメンターからフィードバックをもらうということです。外から見た自分の強みは何か、弱みは何か、というのを把握しつつ成長していく。それを、あくまでも実際の現場で、行なうための仕組みをつくれるかが重要だと思います。

――現在の日本では何かと「リーダー不在」が嘆かれていますが、日本でリーダーを育成することは容易ではないとお考えですか。

日本には「出る杭を打つ」文化がありますよね。例えばベンチャー起業家の方々など、注目されると、まわりからいろいろやっかみを受ける。そういう文化の中だと、自分の責任でリーダーとして様々なことにチャレンジしようとする人は生まれ難いと思います。そういう意味では、文化的な側面も変えていかないと、日本にリーダーがたくさん育つ状況にはならないと思います。

――ただ、そんな中でも生まれてきたリーダーもいるわけですが、彼らは何故、大成できたのでしょうか。

エキセントリックだからでしょうか(笑)。まじめにお答えすると、僕が尊敬している方々は皆そうですが、地に足を着けつつも、自分がやるべきことを良く認識していらっしゃいます。例えば、コンサルタントと経営者の違いとも言えるかも知れませんが、世の中に解決策を提示できる方は多いと思いますが、実際にそれを自分がやるべきことと強く認識して実行に移していく方は少ないと思います。本気で「自分がやらなきゃいけないんだ」と思える人こそがリーダーであると思いますし、やはり今、実際にリーダーとして成功している方には、そういう方が多いと思います。しっかりと自己分析を行なった上で自分がやるべきことを見極め実践していくことに関しては、皆さんずば抜けています。

■真のリーダーシップ教育とは

――では、吉田さんの考えるリーダー教育とはどのようなものでしょうか。

前にお答えしたスキルをいかにして身に付けていくか、これにつきます。それを長期的な視野に立って社会全体でバックアアップすることでしょう。まずは小さいときからの挑戦することの大切さを教え、それに必要な資質を植えつけていくことが必要です。日本ではやっぱり成功パターンが出来上がってしまっています。良い大学に入って、良い会社に入る。それが不文律みたいになっていますけど、それでは多様な形での挑戦者は出てこない。

挑戦者がいなければリーダーは育たないので、様々な成功パターンが許されるような価値観の変革が必要で、その意味では教育全般を大きく変えていかなければなりません。社会全体の価値観を変えないといけないということは、やはり時間のかかることですので、より多様な社会を創るという、そういう価値観を人々が互いに認め合っていく必要があると思います。ですから、教育だけではなく社会のシステムそのものも変えていくようなことも必要だと思います。

その上で、社会と教育を結ぶようなシステムが必要になってくる。やはり、現在の教育システムは、社会で生かすために勉強をするという基本を見失ったシステムです。そこを変えて、より社会とリンクしていかないと、本当のリーダーを育てるような教育にはならないと思います。改革は二、三十年かかるのかもしれません。

――単にリーダーの「教育」だけでなく、それを支える社会の土壌を変えていかないと真のリーダー育成は難しいということですね。

そうですね。それが本当の意味でのリーダー教育ですね。無論、いわゆる様々な場での「リーダー教育」にも即効性はありますし、やらないよりはやる方がはるかに良いに決まっています。現在でも企業社会においては社長が決断さえすればリーダー教育はいくらでもできるわけですから、積極的に行なうべきだと思います。

――では、これまでの日本でリーダー教育が十分に行なわれてこなかったのは何故でしょうか。また、その影響はどのような形で表れているのでしょうか。

これは他の方にお聞きしたお話ですが、日本とアメリカのマネージャー層の違いは経験の差でしかない、と。というのは、アメリカでは30代からMBAを持った人が10人、20人の部下を持って、試行錯誤しながらリーダーとしての教育を受けています。しかし日本では40代になって初めて部下を持たれる方も少なからずいらっしゃいますから、アメリカの同年代の方に比べて10年間、人をマネジメントするという経験において差をつけられています。それが結果として、効果的にマネジメントをできる層の厚さの違いとなり、それが現在における日米企業の競争力の差、経済力の差になったのだと言われていました。

日本でも、高度成長期にはビジネスの拡大とともにポストと部下が増え、部下をマネージする機会が多かったと思います。それが最近は人をマネージすることを知らない世代の方々がミドル層としてマネジメントに携わらなくてはいけなくなり、経験不足のため効果的なマネジメントを行なえない、それによって企業が根幹の部分から弱体化していっているような気がします。

――高度成長期のモデルが悪循環に陥っているのですね。しかし、経済の縮小によるマネジメントの弱体化はこれまでにも予測できたと思うのですが、何故リーダー教育が不足してしまったのでしょうか。

それは残念ながら、やはり認識不足だったためだと思います。バブル崩壊までは皆が成長神話の中で生きていたわけで、その中で企業の戦略性はそれほど重要視されなかった。それが結果として時代を見誤ることになったと思います。言い換えると、新しい時代においては、企業の業績や競争力は、まさにマネジメントやリーダーシップを適切にとれる人間の数と質によって規定されるということを、多くの方が経済環境のため明確に認識できなかったことに起因していると思います。

――現在日本でも「勝ち組」と「負け組」が鮮明になってきていますが、それはやはりリーダー教育や人材教育への明確な戦略と投資の差によるものでしょうか。

そうですね、その通りだと思います。やはり勝ち組と言われる企業は、ソニーに代表されるようにビジョンと事業戦略の枠の中で、必要と思われる人材の育成体系を持っています。それは当然、組織体系や評価、そして処遇などを含めた包括的なものであり、それを戦略的に位置付けて活用していますね。特に価値観やビジョンなどの伝達・浸透には力を入れて、独自のメソッドで行なわれていると思います。営業する我々の立場からすると、そういう企業を相手にするとなかなか難しい(笑)。

とにかく、やはりエクセレントカンパニーと言われる会社では、社会において何を実現したいのか、というのがはっきりしていると思います。それがはっきりしているからこそ、挑戦しようと思う人も増えてくると思いますし、それが結果としてリーダーを多く育む結果となっていると思います。

■日本のリーダー教育の現状

――では、一部の勝ち組を除いた場合、大きく捉えた日本企業のリーダー教育の現状はどのようなものでしょうか。最近、人材教育を手掛ける企業が成長していますが、それは企業が真剣にリーダー教育に取り組もうとしているからなのか、それともリーダー教育が一種の流行のようになっているのか、疑問に思うのですが。

流行の部分も当然あるとは思いますが、やはりコア人材が大切で、それを育む教育が必要ということについては、多くの方が理解されていると思います。そういう意味では非常に真剣にこの課題に多くの企業が取り組もうとしていると思います。

ただし、実際の導入となると、まだまだ完全な形には至っていません。特に、採用する時点から(リーダー教育の対象として)特定の人材を選抜して集中的に投資することについては、やはり選抜されなかった人に対する配慮がはたらいてしまって、そこまで踏み込んで行なうことは、なかなかできていないと思います。

――実際に行なわれているリーダー教育のプログラムはどういう形になっているのでしょうか。

グロービスがサポートさせていただいている事例の一般的な流れとしては、コンセプチュアルスキルについての講義、及び実際の問題解決の場面においてそれをどう使うかというケーススタディ、そしてビジネスフレームワークの講義及びそれをどういう形で意思決定に生かすかというケーススタディ、これらをイントロとして行いつつ、その後、修得した知識を実際に生かすアクションラーニングなどを行っています。アクションラーニングとはコンサルタントの方を講師として迎え、自社の課題について分析しながら受講者が社長に対してビジネスプランを作成し、プレゼンを行うという形式のものです。ここまでが知識をインプットする第1フェーズです。

しかしながら、これらだけでは行動や態度などが本当に変容していくのは難しい事なので、第2フェーズとして例えば海外の子会社の社長などへと配置転換しつつ、そこで経験を積ませるという形になります。

そして最後に第2フェーズの結果、選抜された人材は社長より直々に様々な意思決定についての薫陶を受ける社長塾みたいなものを受講するというものです。

――そのような内容はグローバルにある程度共通しているものでしょうか。もし違いがあればその要因とともにご説明いただければ幸いです。

内容としてはある程度共通していると思いますが、やはり日本において重点が置かれている部分は例えばGEのような欧米の先進企業とは違うと思います。というのも、やはり日本企業においては論理的思考力の欠落というものは明らかであって、そのために知識のインプットフェーズがどうしても重点を占めてします。でも欧米の企業では論理的思考などが前提として始まるために、アクションラーニングや実際現場で鍛えるOJT的な要素が強くなるために、知識などをどう実践に活かすかという部分に力を入れていくことができていると思います。

――日本企業のリーダー教育の捉え方や人材観の変遷はどういう軌跡をたどってきたのでしょうか。

そうですね。この10年ぐらいで人材は育てていくものということを認識するようになって、ここ5年ぐらいでコア人材の能力が企業の競争力を決めるという考え方が定着し、事業戦略とリンクした人材戦略の必要性が認識されるようになったと思います。そしてその結果として従来の均質的人材を育成する階層別教育から、コーポレートユニバーシティー(企業内大学)が多く設立され、最近では人材育成の効果をより明確に享受することが重視され始めた中で、アクションラーニングや配置転換なども含めたコア人材の個々の育成プランの必要性が認識されてきていると思います。

――人材の付加価値を上げるステップの次のステップとして、人材ポートフォリオを組んだ上で、「選択と集中」の人材戦略を練る必要があると思うのですが。

限られた予算の中でコア人材に対してどう集中的な投資を行っていくかという点は、非常に重要な事だと思います。そういう意味では人材ポートフォリオをしっかり組んだ上で、高度に戦略的な人材戦略を運用する日が確実に来ると思います。そしてその時には、個々人に対して人材ポートフォリオ上の位置付けを明確にフィードバックしながら、将来のキャリアプランを示していくような形を作る必要があると思います。またこれを実現するためには、より客観的な評価制度を作る必要があると思います。

■リーダーを育てる社会・文化の創造

――今後日本においてより効果的なリーダー教育を行なう上での課題は何でしょうか。

そうですね難しい質問ですが、前述した文化風土の問題や、社会システムの変革などが必要だと思います。またそれに付け加えるとすると、日本における分野ごとの断層の間の流動性と透明性を高めていった上で、誰もが自分のフィールドに関らず、チャレンジする気さえあればそこに対してやっていけるというような風土を作っていく事が特に重要だと思います。

――最後に、今後リーダーを目指そうとされる方や、現在リーダーシップを取られている方へメッセージを。

そうですね、学生や若い方にはいろいろなことにチャレンジしていただきたいと思います。何事にもチャレンジして「自分でもできるんだな」っていう感触を掴んでもらいたいですね。加えて社会のゲームのルールなり法則を学んでいていただければと思います。

あとは、世の中に対してどんな価値を提供したいか、自分で守りたい価値はあるかということを確立してもらいたいと思います。価値を提供するためにスケジュールを区切って、それまでに何をしたいのかを明確にしていただければベストだと思います。

現在リーダーの人達には、「頑張ってください」、「想いをピュアに持ち続けてください」としか私からは言うべき事はないと思います。

――ありがとうございました。

吉田哲也(よしだ・てつや)氏
京都府出身。東京大学経済学部卒業。大学在学時に前原誠司衆議院議員の事務所にてインターンシップ。卒業後、住友銀行(現・三井住友銀行)にてディーリング業務等に従事。後、米コンサルティング大手のベイン・アンド・カンパニーでマーケティング関連のコンサルティング等を手掛ける。現在は㈱グロービスで人材育成関連のコンサルティング、マーケティング等を行なう。㈱ウィル・シードの船橋力社長とは親友。

※この記事は2003年10月発行のMPI機関誌『New Beginning』第1号に掲載しました(肩書き等は当時)。

date: 2003.11.03

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